ホーム
記事一覧
日本人が知らない、9000年以上の歴史を超えてきた「漆」の魅力
日本人が知らない、9000年以上の歴史を超えてきた「漆」の魅力

日本人が知らない、9000年以上の歴史を超えてきた「漆」の魅力

2024/07/30・byMika MasukoMika Masuko
京都市の下京区にある堤淺吉商店は、明治42年から「漆(うるし)」の精製・販売を手がけてきました。今年の4月、この歴史ある商店は自然と文化、人々が有機的に繋がる場所として、新たなショップ「Und.(アンド)」をオープンしました。今回は、100年以上の歴史を持つこのビジネスの4代目である堤卓也さんにお話を伺い、店内を案内していただきました。

漆とは日本・中国に生育するウルシの木の樹液

漆とは?


漆とは、日本や中国に生育するウルシの木の樹液を指します。堤淺吉商店は明治42年から漆の精製・販売を行ってきました。今年の4月には、新たな拠点として「Und.(アンド)」をオープンし、漆や工芸を世界に広める活動を行っています。

堤淺吉商店4代目 堤卓也さん

漆の現状と魅力


堤さんからお話を伺い、日本の伝統素材である漆が、長い歴史と共にどのような現状に直面しているのかを知る機会を得ました。

漆は、約9000年前から日本で使用されてきた素材で、木から樹液を得るためには10〜15年の成長が必要です。この漆の木は、アジアにしか自生しておらず、その価値は高く評価されています。しかし、その使用量は50年前の50トンからわずか2トンにまで激減しています。

戦後の高度経済成長、バブル崩壊、そしてIT革命により、私たちの生活は「安く、早く、便利」という価値観に大きくシフトしました。その結果、漆や工芸品は日常生活から姿を消し、大量生産・大量消費・使い捨てが当たり前となりました。

漆の使用量が減少したことで、山々で育つ漆の木や、それを扱う職人たちも窮地に立たされています。漆を採取し、精製する職人たちは、漆の減少と共に彼らの技術や道具までもが失われつつあります。

堤さんは、この悲しい現状に立ち向かい、漆の魅力を伝える活動を始めました。漆の美しさや、使い込むことで増すその艶と魅力を広く知ってもらうことを目指しています。漆は、肌に優しく馴染み、使い込むほどに深い味わいを持つ素材です。傷んだ場合でも修復が可能で、世代を超えて受け継がれることができます。このような漆の特徴は、日本人が昔から持っていた「大切に使い、修復しながら長く愛用する」という価値観と深く結びついています。




新しい挑戦:「BEYOND TRADITION」と「工藝の森」


2016年に始まった「うるしのいっぽ」は、漆や工芸に関わる多くの人々から大きな反響と支持を得ました。しかし、堤さんは、漆に触れたことのない人々にもその魅力を広く伝える必要があると感じ、2019年に新たなプロジェクト「BEYOND TRADITION」を立ち上げました。このプロジェクトでは、「高級で扱いにくい」「特別なもの」といった漆の固定概念を打ち破り、若者にも漆の魅力を楽しんでもらうことを目指しています。漆は、環境にも優しい持続可能な自然素材であり、これを通じて環境問題にも関心を持ってほしいという願いが込められています。

さらに、持続可能なモノづくりと森づくりを目指した「工藝の森」という新たな活動もスタートしました。この活動では、漆を中心に据え、循環型のモノづくりの拠点を築き、さまざまな工芸素材の魅力を発信していきます。10年後、15年後を見据え、地域や行政、教育機関、企業と協力しながら、持続可能な未来を築くための第一歩を踏み出しました。



新たな商品開発への挑戦


・漆×サーフィン

自然、サーフィンに感謝、リスペクトし、美しい地球環境や持続可能な社会を実現し、次世代に引き継いでいくための日豪米サーファーによるプロジェクト。

また、「URUSHI × SURF」、そしてその他に「URUSHI × SKATE」「URUSHI × BMX」は、環境に配慮しながらも、自分だけのオリジナルな特別感と「カッコよさ」を提供してくれる商品です。


・漆の利用方法は無限大

漆の利用方法は無限に広がります。お茶碗や花瓶だけでなく、床の木材、筆、紙コップ、サーフィンボード、自転車の錆防止、インクなど、様々な用途があります。また、漆の絞りカスも有効活用する方法を模索中です。漆の木は15年ほどで育ち、柔らかく軽い木材でありながら、漆を塗ることで強度が増します。


「Und.」は伝統を重んじつつ、新たな商品開発にも積極的に取り組んでいます。漆はもちろんのこと、漆工材料や道具なども異業種メーカーとの共同開発によって、使いやすく高品質な商品を取り揃えています。

漆の魅力を再発見し、次世代に繋げるための活動を続ける堤淺吉商店と「Und.」。
その取り組みは、漆文化の保存と発展に大きく貢献しています。

漆の持つ魅力と持続可能な未来に向けた取り組みが、多くの人々に届きますように。
これからの活動を応援しています!